登録商標「NPO」の取消しについての一考察

 

 

角川ホールディングスの登録商標「NPO」及び「ボランティア」が異議の申立てにより取り消された。5月19日付朝日新聞は、「角川は新雑誌の名前としてこの2つを03年に登録していたが、NPO(非営利組織)の間から「一般的な言葉を営利目的で登録するのはおかしい」と、登録取り消しを求める異議申し立てが出ていた。企業による過剰な登録競争を背景に、ふだん使われている身近な言葉の商標登録を巡る紛争は増えており、今後特許庁の登録基準の見直し論議も起きそうだ」とコメントしている。

 ここで、「一般的な言葉を営利目的で登録するのはおかしい」という表現は正確ではない。正確には「指定商品の内容等を表す一般的な言葉をその指定商品について登録するのはおかしい」である。このような商標はその指定商品に使用してもその商品の出所を表示する機能等を発揮し得ないため、商標法は所謂自他商品の識別力を欠く商標としてその登録を排除している(商標法第3条)。従って、指定商品の内容等を表示するものでなければ、造語(創作された言葉)ではない一般的な言葉や身近な言葉も登録し得る点は確認しておきたい。本件に関連して、例えばキャノンが商標「ボランティア」につき第9類、理化学機械器具等を指定商品として登録を受けていることに何ら問題はないと思われる。

 以下、今回の取消し決定について検討してみた。

 そもそも中学生でも知っている「NPO」や「ボランティア」の語の登録を特許庁は何故認めたのか。指定商品が「新聞、雑誌」であれば、出願商標「NPO」や「ボランティア」がそれらの内容を表示するものであり、それが商品の品質等を表示するに過ぎない所謂記述的商標について規定する商標法第3条第1項第3号に該当することは明白である。

それにも拘らず審査官がこれらを登録した背景には、商標法第3条第1項第3号に関する特許庁の商標審査基準の7()の存在がある。これには「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする」と規定されており、審査官はこの運用基準に従って、登録査定をしたものと思われる。報道機関はここまで掘り下げて報道しないと、出願人や担当審査官が気の毒である。

このような基準が存在する理由として、商標権者は、@「新聞、雑誌」は、掲載している内容が需要者にわかりやすいようなタイトルを雑誌名として選択することが一般に行われている、A雑誌のような定期刊行物は、毎号その記事内容が異なるため、雑誌のタイトルが直ちに内容表示になるとは言えないという特殊な事情があるからとし、この基準に従った本件登録の妥当性を主張した。

商標権者のこの主張は良く理解できるところである。実務においては、頻繁に利用される基準であり、第16類の「印刷物」を指定して出願された商標が品質表示であるとして拒絶理由を通知された場合、指定商品を「新聞、雑誌等の定期刊行物」に補正すれば登録されることが慣用化されているからである。

商標権者のこの主張に対し特許庁は「このような事情も勘案されて、商標審査基準が定められていることは否定されるものではないが、上記の二点の理由をもって、「雑誌、新聞」に使用する商標の登録が認められるならば、「新聞、雑誌」に使用される商標は、自他商品識別力の有無とはかかわりなく「早い者勝ち」的に登録されることとならざるを得なくなる」とし、「これらの理由により、本件商標の登録は維持されるべきであるとの商標権者の主張は、採用することができない。」とした。

この点、工藤莞司著、発明協会発行の「商標審査基準の解説」によれば、この審査基準の存在理由として、定期刊行物の題号は、発行者が採択、使用しているものであり、定期刊行物はその題号が自他商品の識別標識として取引きに供されているという定期刊行物に係る取引きの実情を踏まえているものであろうとしている。確かに定期刊行物については、内容を表示する題号であっても我々はそれを商標と認識しているところがある(例えば、「オートバイ」という題号のオートバイ雑誌等)。従って、仮に今回の登録取消しがなく、角川が関連雑誌に「NPO」や「ボランティア」の商標を使用していたら十分自他商品の識別機能を発揮したのではないかと思われる。

 反対に、今回の取消しによって、角川を含め誰でも自由に「NPO」や「ボランティア」の題号の雑誌を出版することが可能となった。これを需要者の側から見れば、異なる内容、異なる出版社からなる「NPO」や「ボランティア」と同一名の雑誌が本屋にいくつも並ぶこととなる可能性が生じ、そのような事態となれば、商品の誤認混同は避けがたいのではないか。

しかしながら、異議の決定は、本件商標の自他商品識別力について、@創作性がない、A取引者・需要者により自他商品の識別標識として認識される程度は極めて低い、B「NPOジャーナル」のように「NPO」の語が定期刊行物の題号の一部に使用されている実情がある、C「NPO」の語に独占適応性がない、D使用された結果、自他商品の識別力を獲得していたとの主張、立証がない等を理由に、本件商標は需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であり、商標法第3条第1項第6号に違反してなされたものとした。

そして、採用された異議の決定の取消理由が商標法第3条第1項第3号ではなく同6号とした理由として「商標の一般的登録要件を規定する商標法第3条第1項各号についてみるに、同項第1号から第5号までの規定は、自他商品識別機能を果たし得ない商標や、特定人に独占使用を認めるのを公益上適当としない商標を例示的に列挙しているものであって、同項第6号は、これ以外の、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を総括的に規定しているものと解される」とし、「「新聞、雑誌」を指定商品として登録出願された商標が、商標法第3条第1項第3号の適用を受けることがあるのはもとより、同号の適用がないとされる場合に、同号を除く同項各号の適用を受けることも当然あり得る」としているが、結局、本件商標が審査基準でいう原則に該当するのか否かの判断は回避された。当該審査基準の今後の運用を見守りたい。

以上

 

★商標ワンポイントアドバイス★

自社で商標を採択するにあたり、自他商品の識別力の判断が難しい場合はどうすべきでしょうか?

識別力のないことが明らかな場合はともかく、識別力の有無の判断に迷った場合は、とにかく出願することをお勧め致します。

先登録商標がある場合と異なり、審査で最終的に拒絶されても自己の商標の使用継続が可能だからです。この点、前掲の事件でも角川の登録は異議でつぶされましたが、角川がこれらの商標を今後使用することは可能です。

特許庁における識別力に関する審査の判断は微妙であり、もし識別力がないとの判断で出願しないで使用していると、他社がその後出願したものが登録になった場合、その時点でその商標を使用できなくなるおそれがあります。

以上



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