企業総合賠償責任保険(CGL)は 知的財産権侵害訴訟弁護費用に充分なのか? 1.企業の最も重要な財産の保護 知的財産(商標、サービスマーク、トレードドレス、企業秘密、著作物、特許された物質(材料))は、企業、研究所、非営利組織(以下、本文において「企業」とは、会社、研究機関、非営利組織をいいます。)にとって最も価値のある財産のひとつです。実際には、技術を中心とする新興企業においては、知的財産のみが資産である場合もあります。 万が一、御社の競合企業が、御社に対して知的財産権侵害訴訟を起こした場合、米国の企業総合賠償責任保険は、御社が支払う損害賠償及び弁護士費用の払い戻しをしてくれるのでしょうか。 2.訴訟費用 知的財産に関するリスク及びそれらに関する財務的なコストは膨大になる可能性があります。1999年の後半、Amazon.comは、Amazon.comの主要な競合企業であるBarnesandnoble.comに対し、Barnesandnoble.comが、事前にクレジットカードと配送の情報を設定することにより、顧客が1度だけクリックすることによって迅速にオンライン上で精算できる技術である、1-Click技術に関する特許権を侵害していると訴えた、という有名な例があります。1999年12月1日に、ワシントン西部地区裁判所は、Barnesandnoble.comに対し、”Express
Lane”という、Barnesandnoble.comが1998年に「大きな向上」として自らのオンラインサイトに宣伝し、オンラインショッピングのための技術の使用の仮差止を命じました。もっとも、米国連邦巡回控訴裁判所は、2001年2月に当該差止を取り消しましたが、Barnesandnoble.comは重要なクリスマスシーズンの最中に、”Express
Lane”を再考せざるを得ませんでした。 不運なことに、訴訟(それが利益のない主張に対してであっても)に要した弁護の費用は、米国においてはすぐに数万ドルに達します。1999年に、American Property Law Associationでは、著作権侵害の申し立てに対する弁護で成功するために最低15万ドルかかり、特許権侵害の申し立てに対する弁護で成功するためにはその10倍かかると推定しています。なお、地位が確立した大手企業は、小さく資力に乏しい技術を基礎とした競合企業に対して、ビジネス戦略として訴訟を起こします。 したがって、事業を開始したばかりの企業は保険の種類及び範囲を真剣に検討すべきです。既存の企業は、加入している保険が将来の知的財産に関連するリスクを充分カバーするかどうかを確認するため、定期的に検討する必要があると思われます。 3.企業総合賠償責任保険 米国に住所を置く企業の中には、所在する州や地域の法令によって企業総合責任保険(以下、CGL保険といいます。)またはその他の保険に加入することを要求されることがあります。また、保険に加入することが要求されていない企業であっても、ビジネスパートナーや契約の相手方が、企業に対し、CGL保険に加入するよう主張するかもしれません。CGL保険証券はそれぞれ独特なので、保険証券の文言を慎重に検討し、会社が負うリスクを充分カバーするかどうかを評価する必要があります。一般的には、CGL保険証券は、(1)対人事故、(2)器物破損、(3)その他の対人事故(名誉毀損)、(4)広告損害、もしくは「Piracy」(権利侵害)によるクレームをカバーします。 CGL保険証券は上記の4つの分野における事故の責任限度までの和解金、判決によって支払わなければならない損害賠償だけではなく、保険証券の限度額と無関係に、上記の4つの範囲内に入るクレームに関する弁護等費用もカバーします。 4.CGL保険は知的財産権侵害クレームには不充分 多くのCGL保険証券の文面上では通常、知的財産権侵害と思われるクレームをカバーしません。商標、トレードドレス、著作権、営業秘密、特許、不正競争、独禁法違反のクレームには、広告損害、またはPiracyが含まれているとする人もいます。米国でこのようなクレームはCGL保険でカバーされているとの判決もありますが、明らかに保険証券の文言の範囲内ではないクレームは保険証券の範囲外との判決を引用して、保険会社では声高にこの論争を否定しています。この問題が争点となったので、近年多くの保険会社がCGL保険証券にて特許等の侵害クレームを明示的に除外するようになっております。 知的財産権侵害訴訟クレームの対象となり、CGL保険で補償されたい被保険者は、まずはCGL保険証券文言の範囲を明確にするために、保険会社を訴える必要があるかもしれません。 かかる訴訟で保険会社は被保険者を弁護する義務があるかないかを判断するために知的財産権侵害クレームと保険証券の文言を比較します。もし知的財産権侵害クレームが保険証券の範囲内である可能性があれば、保険会社は被保険者を弁護する義務があると判断されます。 言うまでもなく、訴訟の結末は想定し難いので、技術を中心とする前向きな企業はCGL証券の対象範囲についての裁判所の判決による予期せぬ収穫を当てにするよりも、営業を始める際に、別途、知的財産権保険の必要性を検討した方が望ましいです。 それゆえに、技術に注力する企業は包括的なビジネス戦略の一部として、より広範な知的財産権保険を模索することが望ましいです。 もし御社または御社の関連会社が第三者の知的財産権を侵害するという旨の警告書、ライセンスを締結する提案、訴訟通知等を受け取った場合には、すみやかに知的財産に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。 以上
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