対米国政府契約における受託業者の報告義務:

不注意者を待ち受ける罠

 

  近時の米国判例の下では、米国連邦政府の執行機関、例えば、国立衛生研究所(NIH)、 疾病対策予防センター(CDC)、航空宇宙局(NASA)、連邦エネルギー規制委員会(FERC)、海洋大気庁(NOAA)、 米国標準技術局(NIST)、米国農務省(USDA)、連邦航空局(FAA)、米国防総省(空軍、陸軍、海兵隊および海軍を含む。) といった機関との間に契約を締結した非営利組織及び小規模会社は、当該契約の各条項を完全に遵守しない限り、 当該契約の下に生じた発明に対する権利の全てを米国連邦政府に取り上げられるおそれがあることを肝に銘じなければならない。


1.要約

  2004年11月、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、キャンベル・プラスティック事件 []において、米国陸軍化学研究開発工学センター(以下「陸軍」という。)の受託業者が自らの発明に対する権利を失い、 代わって米国連邦政府がこれを保有しうるとの判決を下した。理由は、当該受託業者が、自らの行った発明の内容を、陸軍に対し、 当該発明が発明者から特許出願担当者へと報告された後2か月以内に統一様式の書面にて開示する旨の契約条項に違反したというものである。


2.契約内容及びキャンベル社の活動について

  1992年9月25日、キャンベル社と陸軍は、 航空機乗務員用フェイスマスクに用いる部品を開発する旨の契約を締結した。当該契約には、 以下に示すような、連邦調達規則 []から直接に採られた、連邦の執行機関が物資及び役務を調達する方法に係る幾つかの条項が含まれていた。

 

    「受託業者は、対象たる発明を、連邦機関に対し、 当該発明が発明者から特許出願担当者へと開示された後2か月以内に開示するものとする。当該開示は、書面を用いて、 当該発明がその下に行われた契約及び発明者を特定して為されなければならない。また、当該開示は、当該発明の性質、目的及び運用法、 並びに物理的、化学的、生物学的又は電気的性質に関して開示の時点で知り得る限りの明確な理解をもたらすべく、 技術的な詳細を完備していなければならない[]。」


    「受託業者は、以下の場合、連邦機関の書面による要求により、 連邦機関に対し、対象たる発明に対する権利を譲渡するものとする。

     (1)受託業者が、対象たる発明に関する開示又は権利保持に係る選択を、 本条(c)項に定める期間内に行わなかった場合[]。(後略)」


 当該契約はまた、キャンベル社に対し、対象たる発明を、「DD Form 882」と呼ばれる統一様式を用いて、 12か月毎及び契約に係る作業の完了から3か月後に開示することを要求していた。

 

3.キャンベル社による報告

  1992年12月14日、キャンベル社の社長は、陸軍の代理人に対し、 フェイスマスクに利用する「超音波溶接」技術に関する手書きの説明図数枚をファックスした。

  1993年2月11日、キャンベル社の社長は、超音波溶接を説明する図をファックスし、 翌月後半には、マスク用に計画された超音波溶接についての記述を含む月例レポート他数通の書面をファックスした。 1993年の7月21日及び8月5日、キャンベル社の社長は、陸軍に対し、費用見積を送付するとともに、 超音波溶接の構想がほぼ完成したことを伝えた。そして、1993年10月18日、キャンベル社は、 発明は生まれなかった旨を記載したDD Form 882を提出した。

  キャンベル社は、1994年6月6日、超音波溶接構想に関する記述を含む月例進捗報告書を提出し 、その後も、1994年後半にかけて、超音波溶接プロセスへの取り組みを月例進捗報告書にて幾度か報告したが、 1994年9月15日に提出されたキャンベル社の最後のDD Form 882には、如何なる発明もリストアップされていなかった。

  1997年8月、キャンベル社は、「超音波溶接されたガスマスク及びその方法」 と題した発明に関する特許出願書類の作成を弁理士に依頼した。1998年1月30日、米国特許庁は、陸軍に対し、 当該出願の公開又は特許の付与が米国の国防に有害か否かを判断するために当該出願を閲覧することを許した[]

  1999年4月20日、当該発明に係る米国特許が登録されたが、当該特許には、 契約条項にて規定された通り、政府が一括前払型ライセンスを留保する旨と、政府が「特定の条件の下で、特許保有者に対し、 合理的条件にて第三者にライセンスすることを要求する権利」を留保する旨が明記されていた。

  キャンベル社が陸軍に当該特許を通知したところ、陸軍は当該発明に対する共有を主張した。 契約には、両当事者の紛争は陸軍とその契約相手との紛争を聴聞する裁定機関である陸軍契約紛争審判所(Armed Services Board of Contract Appeals)の聴聞に付されるべき旨が規定されていた。

 

4.キャンベル社の主張

  キャンベル社は、陸軍に対する開示をDD Form 882の形では行わなかったとしても、自社は当該発明の全ての技術的側面を事実上開示済みであり、 そのことは、1997年6月公刊の陸軍で行われた研究に関する報告書が、マスクの超音波溶接部品に言及していることにも表れている、 と主張した。これに対し陸軍は、自らの作成したその報告書が、当該発明の実施例となっていることを認めた。キャンベル社は、さらに、 自社の契約違反は形式的なものに過ぎず、発明に対する権利の喪失という効果を導くべきものではないと主張した。

 

5.陸軍契約紛争審判所の裁定

  陸軍契約紛争審判所は、仮に陸軍自身による1997年6月の報告書が実施例となっているとしても、また仮に陸軍が、国防問題の判断のため特許出願書類を検討した際に当該発明の内容を 把握したとしても、キャンベル社が契約に係る陸軍への発明報告義務を履行しなかった以上、キャンベル社は政府に対し当該特許に対する 権利を取得する機会を与えたことになると裁定した。キャンベル社は、当該裁定を争うべく、CAFCへと控訴した。

 

6.CAFCの判決

  CAFCは、陸軍契約紛争審判所の裁定を支持し、キャンベル社は当該発明に対する権利を失い、連邦政府がこれを取得しうると判決した。 CAFCは、連邦調達規則及びそれに基づく契約条項は、非営利組織及び小規模受託業者に対し政府との契約を履行する中で 自らが生み出した発明の権利を保持することを許す法律であるバイ・ドール法[]に由来すると判示した。その上でCAFCは、 受託業者が当該発明に対する権利を保持するためには、受託業者による個々の発明の開示が、発明完成後合理的な期間内に、 すなわち受託業者が当該発明に対する権利を保持することを選んだ場合においては一括前払型ライセンスにより当該発明を実施することが できる旨の[]、また受託業者が法定期間内に特許出願を行わなかった場合においては 米国又は他国における当該発明に対する権利を取得することができる旨の[]、いずれもバイ・ドール法の下に認められた権利を政府が行使することを可能ならしめるような、 合理的期間内に行われることが必要であると判示した。

  CAFCはまた、 統一様式の容易に判読できる発明開示書を要求することは、受託業者の行った発明に対する連邦政府の権利を効果的に 保護する正当なものであり、それゆえ契約文言は「厳格に適用される必要がある。」と判示した。その上で、CAFCは、 契約条項の形式及び内容に関するキャンベル社の不履行は、当該特許に対する権利を連邦政府に与えることを許すものである と結論したのである。

  

  



[] Campbell Plastics Engineering & MFG., Inc. v. Brownlee

http://fedcir.gov/opinions/03-1512.pdf.

 

[] 連邦調達規則(FAR)52.227−11は、下記URLから閲覧できる。

 http://www.acqnet.gov/far/

 

[] 連邦調達規則52.227-11(c)(1)

 

[] 連邦調達規則52.227-11(d)(1)

 

[] 1998年1月30日、米国特許庁は、陸軍に対し、35 USC Sec.181、すなわち特許出願の公開又は特許の付与が国防に有害か否かを判断するため、 当該出願を検討することを政府に許す米国特許法条項に基づき、当該出願の閲覧を許した。

 

[] 35 USC Secs. 200-212

 

[] 35 USC Sec. 202(c)(4)

 

[] 35 USC Sec. 202(c)(3)

 


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