国際裁判管轄と準拠法


  時折お客様から受ける質問に、外国企業との契約がこじれて紛争になった場合に、日本企業は日本で裁判を起こせるのか、またいずれの国の法律が適用されるのかというものがある。今回はこれについて簡単にまとめる。


 1 国際裁判管轄

(1)はじめに

国際的な民事紛争の裁判をいずれの国で行いうるかの問題、すなわち国際裁判管轄の問題を考えるにあたっては、「当該事件はどちらの国において裁かれるべきか」といった大局的な視点から考えるのではなく、「この事件をA国の裁判所に持ち込んだ場合、A国の民事訴訟手続上、適法なものとして受理されるであろうか」といったいわば近視眼的な視点から考える方が分かりやすく、また現実にも即している。というのは、現在のところ国際的な統一裁判システムなるものは存在しないため、いかに国際紛争といえども当事者は取りあえず特定の一つの国の裁判所を選んで出訴するのであり、これを受けた裁判所においても、当該出訴を取り上げうるか否か(管轄権があるか否か)を、あくまで自国の法制度に照らして判断する以外にないためである。
  

(2)具体的判断基準

 では、具体的な事件が各国の裁判所に持ち込まれた場合、裁判所はどのような基準を用いて自己の管轄権の有無を判断するのか。
  これはあくまで各国の具体的な成文法や判例等によって定まることであるが、我が国の場合は、判例上、大まかに言うと、@国際事件の管轄権の有無は当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定すべきであるところ、A我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本にあれば我が国裁判所に国際裁判管轄を認めるのが条理に適う、とされている(マレーシア航空事件)。
  要するに、国内事件と同様に考えて、当該事件における被告の住所地や義務履行地が日本のどこかの土地である場合は日本での裁判を認めましょう、というわけである。


(3)国際管轄合意

ア 合意の効力一般

上記判例の基準は、当事者間に国際管轄の合意が予め存在しない場合に関するものであるが、これに対して、契約で予めいずれかの当事者の国の裁判所を指定していた場合は、通常は両国いずれの裁判においても、当該合意に従った管轄の判断が下ると思われる(国によっても判断が異なりうるため、一般的に断言はできない。)。
  実際我が国においても、判例上、要旨「特定の外国裁判所を第一審の管轄裁判所として指定する合意は、当該事件が専ら日本の裁判所の専属管轄に属さず、かつ当該外国裁判所に管轄があるときは有効」とされている(最判昭和50年11月28日)。要するに、日本の法律上日本でしか扱い得ないとされている事件や、指定された国の法律上その国では扱い得ない事件といった特別な場合でない限り、日本の裁判所としては当該合意に従った管轄の判断を下すというわけである。


イ 第三国を指定する合意 

 では、当事者がいずれかの属する国ではなく、第三国を管轄地として指定する合意(仲裁においてはよく見られるタイプの合意である。)を行った場合は、当該合意に基づく出訴を受けた当該第三国の裁判所はどのような判断を下すであろうか。
  この問題については、少なくとも我が国には判例が存在しないようであるが、当事者が合意したからといって、縁もゆかりもない第三国が税金を使って裁判を行わねばならない理由はどこにもない。従って、おそらくは当該第三国の裁判所は自国の管轄を否定すると思われる。



2 準拠法

(1)管轄の問題をクリアし、さて国際事件を持ち込まれた裁判所がいずれの国の法律を適用して事件を裁くかが、準拠法の問題である。

(2)準拠法としていずれの国の法律を選択すべきかの規範は、裁判を持ち込まれた国の国内法が定める。講学上準拠法選択基準を定める国内法の全体を(教義の)「国際私法」と呼んでいる。我が国では「法例」という名前の法律がこれにあたる。

(3)法例に則ってする我が国における準拠法判断手順は次の通りである。
@準拠法は、第一に当事者の意思に従って定まる。
A当事者の意思が不明であれば行為地における法律が準拠法となる。
 
 @の「当事者の意思」については、明示の準拠法合意があれば当然それに従う。明示の合意がない場合は、講学上は、使用言語、管轄合意の内容、取引の場所等の諸般の事情に基づき当事者の意思を推定すべきとされるが、裁判実務上は直ちにAに移り、行為地法を準拠法とする事例も多い。
  なお「行為地」とは、問題となる行為が行われた土地のことであり、契約の解釈が争われる場合は、契約を構成する意思表示の行われた場所、すなわち契約の申し込みを行った当事者の所在地がこれに該当する。ドラフトが何度も行き交った場合は、最後のカウンター(=相手方がそれを承諾することにより契約が成立した最終案)を投げた当事者の所在地が行為地となる。


3 国際裁判管轄と準拠法

  最後に、国際裁判管轄と準拠法の関係について追記すると、順序的には前者が先に定まり、後に後者が定まる。
  そして、両者は一応別個独立の問題であって、例えば「裁判は日本、準拠法は外国法」といった組み合わせも当然生じうる。この点、仕事で目にする契約例には、日本の裁判管轄を定める合意はあるが準拠法の指定がないといった例がままあるが、確実に日本法の適用を受けたいのであれば準拠法についても明示的に合意する必要がある。(当該管轄合意の存在自体が日本法を準拠法とする合意の推定資料として働きうるのは前述の通りであるが、管轄合意だけで直ちに準拠法合意が推定されるものではない。)。
 
以上

                                                   


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